第四章 社会復帰への階段
1.ニート脱却へ
9月25日(金) 23:30頃
【神のみぞ知る】
今日は忙しかった。
そして、色々と収穫の多い日だった。
まず、前頁の最後に書いた「面接」の件。
なんと、あっさり「採用」。
と言っても、アルバイトなのだが。
朝、予定通り面接に行き、夕方、結果の連絡があったのだ。
面接の際は、「大量服薬で自殺未遂」とまでは口にしなかったが、“鬱病”と診断され入院して会社を辞めてしまった事を一通り話した。
履歴書にも、態々その事を書いた。
だって、職歴で空白期間があれば「何してたんですか?」と問われるのは明白だから。
そして、“鬱病”で入院履歴がある人に怪訝を覚えるような人達に雇われるのも嫌だし。
面接時、最初に相手をしてくれたのは、総務部の部長らしき女性の人だった。
募集していた職種は、「経理1名、伝票処理1名」。
おそらく、直属の上司となる人なのだろう。
上司が、女性であることは、それだけで、私にとって好材料となる。
私は、これまでの仕事の経験から、男社会的な風土にはどうも馴染めない感があったので、特に小規模会社で男性が多い所には、注意の眼差しを向ける。
だから、部長職に女性が就いていると言うだけで、真っ黒な男社会でないだろうとの社風が見込めて、安心なのだ。
一通り、私の職歴や志望動機等を述べ、「伝票処理ぐらいなら、経験がないけれど私にもこなせるのではないか。」と、彼女に迫った。
すると、彼女は少しためらいを含め、「伝票処理の仕事は、アルバイトと言う形で募集しているのですよ。」と返してきた。
どうやら、私の年齢や職歴から「正社員」として、私が仕事を求めてきたと思っているらしかった。
私は、はっきり言って、雇用条件など気にしていなかった。
とにかく、普通に「仕事をしたい。」と言う要求だけで、給与や待遇などには全く期待していなので、即座に「何せ、療養明けでぐうたらしていた期間が長いので、それを解消したい。とにかく決まった時間に出勤して、それなりの仕事が出来て帰れる、そういう生活サイクルを確立するのが重要なので、アルバイトでも何でも構いません。」と返した。
そんな話をしていると、社長が遅れて入ってきて、私は、彼女に言った内容と同じ事を、社長に伝える事となった。
社長も、「鬱病明けでリハビリ的に仕事がしたい。」との私の要求を理解し、合理的に捉えててくれたようだった。
これまでも書いているが、私は、人と相対する時、この精神病の気が表に出ることは無い。
そんな様子も手伝ってか、社長は私に対し、「その感じの顔色なら別に“鬱病”とか過敏に気にする程でもないね。」といった具合の感想を述べた。
で、結局採用して貰えたらしい。
早速、来週の月曜日、9:00に出勤する事となった。
まあ、その会社にしてみれば、私は、“結構良い見っけ物”だったのだろう。
客観的に見て、アルバイトの待遇にしては、私の職歴や年齢は、持て余すほど好条件なのは想像に安い。“鬱病”と診断された件を除けば、普通、正社員としての雇用を求める立場なのだ。
だけれど、この不況に、この入院歴。私は、「ゼロからスタート」の腹積もりなので、アルバイトでも何でも「持って来い!」なのである。
いや、寧ろ“アルバイト”としての方が、精神的に楽だ。
正直、“正社員”と言われても、それに答えられるだけの自信が、今はまだ無い。
なんともうまい具合に、お互いの利害が一致したのだろう。
でも、「とにかく仕事をしたい。」と言う事で精一杯の私は、「時給いくらなのか?」と言う最低限の事すら聞き忘れている。「採用」の電話が来た時も、とにかく採用された事に浮かれて、そんな事はどうでも良かった。今も、月曜日に出社した際に、色々と聞けば良いと考えている。(それを伝えていない会社側も、褒められた物ではないけれど。)
ちなみに、私が自活するには、試算したところ、最低月18万円程必要なことが分かった。
アルバイトなので、そして、平日に病院への通院がある事を考えると、このラインまでは達しないだろう。完全に経済的に自立は出来ない。
けれども、全然、嬉しい。仕事があると言うだけで。
それから、もう一つの今日の収穫。
毎週受けているカウンセリングについて。
これまで、カウンセリングでは、私が、私の親兄弟の事、そして、自身の事を思い起こしながらカウンセラーに伝えるだけだった。
これを一通り伝えた段階で、カウンセラーが見解を述べることになっており、そこで、カウンセリングを続けるか否かを私が判断する段取りとなっていた。
本来、最初の3回ぐらいでこの段階まで到達するのだが、どうも私は話が長いらしく、今日で(5〜6回は行っただろうか?)漸く、その段階に辿り着いた。
そして、カウンセラーから、やっと私に対する見解が聞けた。
カウンセラーが私の特徴として述べたものは、次の様な事だった。
@ 人付き合いにおいて、心を開いて付き合う相手は少数である。
A とにかく人に比べて記憶している量が多い。(私が喋りすぎただけ?)
B 感情を表に出さない事を身につけている。
C 知的な能力は高く、努力も出来る質だ。
D 突然、ぷっつり、やる気が失せる事がある。
E 人をコントロールする事が上手い。
私は、そんなカウンセラーの見解を聞いて、「8割がた合ってますね。」と答えた。
正直、@〜Dまでは、自覚している。他人に言われるまでの事でも無い。
しかし、Eについては新発見だった。
言われてみれば、これまで私は無意識に、周りの近しい人を動かし、私の好む環境となる様、仕向けていたのかもしれない。
今だって、ニートとしてやっているのは、実は、この特徴のせいかも知れない。
@〜Dまでの感想だけであれば、私は今回でカウンセリングを止めていただろう。
一回(50分間)で8千円なのは、痛い出費だから。
しかし、Eを指摘され納得した事と、カウンセラーの人が男前なので(カウンセラーとして出会いたくなかったなあ。カウンセラーとなった時点で、恋愛関係はタブーでしょう。)、とりあえず、次回もカウンセリングを予約した。
次回からは、特にテーマも決めずに話をしながら、進行していくらしい。
今更ながら、カウンセリングの目的とは、「自分に対して新しい気づきを与え、楽に生きられるようにする。」と言うことなのだと、暗に知った。
カウンセリングの後は、隔週の診察があった。
主治医が、「結構、カウンセリング受けているみたいだね。どう?」と聞くのだが、私は、返答に困った。カウンセリングに対しては、まだ、何の感想も無かったからだ。(もし、言うとすれば、「なんで男前の人を担当にしたの!」と言うことぐらい。)
「『どう?』と聞かれても、困りますね。これまでは、ただ一方的に私の方が喋った段階なので。結果も見えないし、特にこれと言った感想も持てる段階では無いですよ。」
そう私が答えると、主治医は、これまた彼の信用できる愚直さを前面に出して返した。
「結果なんて、まだまだ実感できる段階じゃないよ。カウンセリングなんて年単位で考えるものだからね。」
・・・。
確かに。
私は、カウンセラーからも「深くやるなら最低でも1年は必要。」と言われていたのを思い出した。
そんな会話の後、私は、今朝面接に行ったことを主治医に伝えた。
するとまた、主治医は愚直に、「え〜っ、伝票処理なんかやるの?そんな単純作業、嫌じゃない?正直、僕はああいう単調な仕事を黙々とこなせる事務の人達を尊敬するよ。」と感想を漏らす。
私は、「伝票処理だって、考えながらやれば楽しいですよ。お金の流れとか分かれば、会社の動きも分かるし、経理的な事だって勉強させてもらえるかもしれない。」と答えると、さらに主治医は、「会社つくろうとか、社長になろうとか考えているの?」なんて聞くもんだから、「いいえ、そんな事までは考えてませんよ。」と私は返した。
どうも、主治医は、「経理的なことに興味を抱く=会社を作りたい」と思考した模様。
私は、「職業としての夢は作家ですかね。」なんて気軽に言うと、これまた主治医は理解しかねるらしく、「うそ〜、考えられない。だって、作家とかって、一日中籠もって書いたりするんでしょ。それが、僕には耐えられないよ。」何て言う。
でも私は主治医を追い詰める。
「いやいや、先生、それを言ったら『24時間ドラムを叩いていられる。』なんて言ってる先生の方が異常でしょ。趣味が同じ楽器弾きとして言わせてもらっても、流石に理解出来ないですよ。」
すると主治医は、漸く納得した模様。
「そっか、単純に興味の問題か…。」
そう、自分に言い聞かせるように呟いた。
う〜ん、最近の診察はいつもこんな感じなのだが、良いのだろうか?
まあ、私も薬を出して貰えば良いだけだし、変に病人扱いされても困るから害は無いんだけれど。
こうして病院を終わってからは、20〜30分くらい歩き回って買い物したりとか、公共料金を支払いにコンビニに行く等と、動きまわった。
家に着いて落ち着いたのは、17時頃。
その後、朝の面接の「採用」の電話を受けたのである。
結構、疲労感を覚えていたので、横になってみたが、特に眠気も出ない。
今朝は、面接を意識して緊張ていたのか、7時前には目を覚ましていたし、夜中もちょくちょく目を覚ましていたものだから、眠たくなってもおかしくないのに、何故か眠れない。
そこで、以前から見ようと思っていた映画のDVDを見始めた。
見終わると、なんだかソワソワしてきたので、「デパス」を飲んだ。
今日は、面接前の朝に1度飲んでいたので、これで2回目。
「デパス効果で眠くなるのでは?」と期待していたが、それも無かった。
そして、夜中になっても、暇つぶし的に、今、こうして、このサイトを更新している。
疲れているんだけど、眠れない。
薬の効き目も今ひとつ。
やはり、まだ、脳の何処かが変なのだろう。
こことのところ、精神的にはだいぶ安定してきたと自覚しているのだが。
(でも、9月上旬に何度か“発狂”の症状が出たのですけど。)
まだまだ、私の状況は分からない。
病気の事も、仕事の事も。
今は、先の事は考えず、運と流れに沿って、何となく行動している感じ。
先の事なんて神様でもなければ分からないだろうから、考えるだけ無駄。
漸く、私はこう考えられるようになって来たらしい。
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