鬱病生活記

 表紙
 目次
 はじめに
 第一章

 第二章

 第三章

 第四章

 第五章

 第六章

第一章 精神障害発生(鬱病)

4.精神病院の中

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【患者達の本当の姿に気付く】

時間通り運ばれてくる夕食を済ませ、ダイニングルームでぶらぶらとしていると、昼に声をかけてきた『ひろさん』から、ある物を渡された。
そして、「これあげる、仲良くしようね。」そう言って、去っていったのである。

ベットに戻り、渡されたものを見た。
ティシューの箱の側面をちぎって、その裏表に、ボールペンでなりやら書かれていた。

ガラのある表面には、「カネゴンへ 病棟うつってもまた会おう。幸運の四つ葉のクローバー。(そして、その文の横に、クローバーの絵が描かれていた。)好きな言葉、愛、ゆめ、やさしさ。」
灰色の裏面には、彼女の住所と電話番号、そして、「病気と戦いましょう。互いにぜひ友達になりたいです。よろしくお願い致します。」と・・・。

私は心が震えた。
彼女と話をしたのは、ほんの少し。
それも、互いの自己紹介程度。
この病棟では、私が皆を観察していたように、皆もまた、私を見ていたのだ。
そして、『気ちがい』達にも心があるのだ。
しかも、純粋で真っ直ぐな。

私は、「すぐに返事を書かなければいけない。(ただし、住所や電は番号までは書けないが。)」そう思い、紙とペンを借りに看護室へ向かった。
この病棟では、許されたものしか、紙とペンを持てない。


実は、今日の主治医の診断の結果、私は自分の紙とペンを持つことが許されているらしかった。
しかし、その事を告げられていない私は、それらを確保できていない。
聞いていれば、外出時に売店で購入していたであろう。
この病院での患者への対応はこんなものだ。
いろいろ細かいルールもあるらしかったが、独房から出て相部屋のベットで過ごすように言われた時も、基本的なルールが書かれている紙を手渡されただけで、ろくな説明を受けていない。
後のことだが、そんな病院内での扱いに腹を立てた私は、問題行動を起こすような時も出てくる。まあ、その辺の事は後述するだろう。


手紙をくれた彼女は、それを許されていない。
だから、ごみ箱から拾ったティシューの箱に、隠し持っていたペンで何とか手紙を作ってくれたのだ。それを思うと、尚更せつなく、嬉しかった。

看護室へ行くと、年配の看護師が対応してくれた。
物の貸し借り管理の面倒さがあっただけかもしれないし、本当にそう思ったのかもしれない。
その看護師に手紙を見せ、返事を書きたいので紙とペンを貸してもらえないかと頼むと、「だったら直接お礼を言ったら良いじゃない。」と言われた。

「手紙に対しては手紙として応えたい。」と考えていたのだが、看護士の言う事も尤もだと思い直し、私はすぐさま『ひろさん』のもとへ駆け寄り言葉を掛けた。
「凄い嬉しかったよ。超嬉しかった。病棟移るほんの少しの間だけど、仲良くしようね。ありがとう。」
そんな言葉を皮切りに彼女との会話を楽しんだ。

私はこれまで、ダイニングルームで『気ちがい』達を観察し、その中の幾人かとは言葉も交わしたが、まともに会話にはならなかったし、突然感情の赴くまま声を上げたり、忙しくバタバタしていたり、椅子に座ったまま他者を寄せ付けぬ気配を漂わせ黙っていたりする者達が多くいたので、彼らを単なる『気ちがい』としか捉えていなかった。
実際、この『ひろさん』も、慌ただしく動き回り、症状の悪い時は大声を上げたりしていたので、先にも書いたが私は多動症ではないかと捉えていたのである。
ちなみに、彼女の病名は、本人から聞いたのだが、『統合失調症』というものであった。
しかし、このように話してみると、単なる奇妙に動き回る者ではなく、感受性の強い、根は本当に優し、むしろ優しすぎる、立派な人だという事が分かった。

それから、私は患者達を見る目が変わった。
(ちなみに、この病棟の患者は、同性の者しかいないので、全て女性である。)


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