鬱病生活記

 表紙
 目次
 はじめに
 第一章

 第二章

 第三章

 第四章

 第五章

 第六章

第一章 精神障害発生(鬱病)

4.精神病院の中

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【運命的な選択】

本を読むのは遅い方で、数ページ読んだか否かで、夕食の時間になってしまった。

食後、寝る前の薬が出るまでの間、少し広がった仲間達と歓談したり、タバコ部屋でくつろいだりしながら過ごした。
「ようやく明日もっとましな病棟に移る事ができる。」との思いはあったが、「ここはここで、それなりに過ごせそうだな。」という感覚が芽生え、少し名残惜しさも感じていた。


翌朝、予定通り朝食という行事を終えると、残り少ないこの病棟での時間を皆と過ごそうと思い、ダイニングルームに腰を下ろした。

暫くすると、『ゆきさん』が私を標的にしたらしく、話しかけてきた。
まあ、話と言っても彼女の一方的な話に、相槌やら感想やらを返すようなものだった。
そんな中、今日私が病棟を移る話題になると、「ここに居てよ。」と彼女から言われたである。
その言葉に、昨晩からシーソーの様にゆらゆらと揺れていた気持が、ガタンと一方へ傾いた。
人間の慣れとは本当に恐ろしいものである。
最初はあれだけ別の病棟に移ることを希望していたにも拘わらず、この時、「まあ、ここに居ても良いか。」と思ってしまったのだ。

運命というのか必然というのか、この時丁度、私の主治医がダイニングルームを横切って行った。
私は、主治医の後を追い、診察室に入るところで捕まえると、唐突に尋ねた。
「病棟を移動しないでも良いですか?」

主治医はその明快な頭脳で瞬時に状況を把握したらしく、少しの間を置いて、私に訊ねた。
「この病棟に居たいの?」

私は何の迷いも無く答えた。
「居たいです。」

主治医は少し不思議そうに首を傾げながらも、「分かった。」と目で相槌をうち、診察室へと入って行った。

私が移動を予定されていた病棟は、満員状態の時が多く、私以外にも移動待ちの患者が居るらしかったので、その状況も把握しつつ、この病棟を希望すれば居られるだろうと予測していた。

結果、どうやら病棟の移動は無なくなったらしい。
私は暫くここで生活する事となった。
いつまで居るのか分からないし、本当にこの決断が良いものなのかどうかも分からない。

しかし、事実として、私はこの病棟に溶け込んでしまった。
本当に気が狂ってしまったのではないだろうかと、自分で自分を嘲笑うほどに。

果たして、今後私はどうなって行くのであろうか・・・。


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