鬱病生活記

 表紙
 目次
 はじめに
 第一章

 第二章

 第三章

 第四章

 第五章

 第六章

第二章 精神病院での入院暮らし

1.精神病院生活記

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4/19(日) 2:50頃

【睡眠薬の効果ダウン】

夜中だと言うのに、パチリと目が覚めた。
まあ、21:00頃に眠りについているので、5〜6時間の睡眠と考えれば、それなりなのだが、昨日までこんな事はなかった。(薬を自ら絶った日を除いて。)早くても、5:00頃まではぐっすり寝ていた。
やはり薬が効き難くなっているのではないだろうか?
坑鬱剤については、あまり心配無いのかもしれないが、睡眠薬については多少怖い。
寝付くのも遅くなっているし、今日は起きるのが早かったし。
どんどん量が増える様な事にならなければ良いが・・・。

少しだるいので、とりあえず、また床に就いてみる。



4/19(日) 7:20頃

【外泊への不安】

再び床に就いた後、目が覚めたのは、5:30頃だった。看護師が同じ部屋の患者の血圧を測りに入ってきた時だった。
看護師から、「ごめん起しちゃった。」と言われたが、「いえいえ、既に起きていましたから。」と答えた。実際、床についていたものの眠りは相当浅かった。

流石にもう眠れそうにない私は、ダイニングルームに行くと、1つのテーブルに幾人かが集まっていたので、そこに加わり歓談した。その後、部屋に戻り、気晴らしに音楽を聴きながら布団を被った。

起床時間になり電気が点くと、また動き始めた。トイレの洗面台で頭を洗い、タバコ部屋に入った。
何人か既に他の者が居たが、隅に座り一人静かにタバコを吹かした。

3本吸った。数分間くらいの間だったろう。他の者の出入りの際、挨拶ぐらいはしたが、恣意的に黙って、隅に座っていた。今日の外泊の事を考えていた。果たして、この病棟を出て孤独になる私はどうなるのだろうかと考えていた。

少し霧がかった冬の朝の様な、静かで冷たい気持ちで、生きている証である自身の鼓動を感じながら。



4/19(日) 8:10頃

【厭世感】

流石にここでの暮らしにも若干疲れてきた。色々な友人も出来、それなりに忙しくしていられるのだが、人との関わりは、私にとって決して楽なものでは無い。

果たしてどうなるか分からない今日からの外泊だが、静かに居られる時間が多くなる事に希望を持てる。

やはり“とかくこの世は生き難い”を実感する。
厭世的・・・。



4/19(日) 9:20頃

【私は偽善者】

やはり、ここに収容されている面々は思しろい。(断わっておくが、良い意味で“面白い”と言っている。)

ふしだらな読書を中断し、タバコ部屋に居ると、UさんにとQさんが入ってきた。前にも少し触れたが、Uさんはその不審な挙動で、皆から忌み嫌われている人物だ。Qさんも忌み嫌っている側の人間。
そんなQさんが、積極的にUさんにコミュニケーションを図っていた。三角眼の寡黙なQさんは、声をかけ辛い雰囲気で、私も最初はちょっと苦手った。そのQさんが、積極的にUさんを相手にしている事に驚いた。

やはり、人が大勢集まれば、色々な関係が出来てくる。Uさんの挙動不審さは、誰かに構っても欲しさによる行動から来るものだと、私は捉えていた。もちろん、常人から見れば、単なる不審者なのだろう。私が始めてみた時もそう思った。それが、今の私の眼には、特に不審には映っていない。

大分ここの空気にも馴染んだのだろう。もしくは、いよいよ私も気が触れたか。

私は、彼女等の行動を見ながら、私が居なくても色んな事が起きる事を実感した。
これまで、私は努めて、ここの面々と積極的にコミュニケーションを図ろうと考えていた。
だが、私の出る幕など、そう多くない事に、そして、私が単なる偽善者であった事に気が付いた。

もっと気楽に、自分のしたい事をしていれば良い。
少なくても、この瞬間は、そんな気持ちだ。



4/19(日) 13:30頃

【私は甘ちゃん?】

昼食前、思いがけず母が面会にやってきた。夕食後に外泊を予定していたのだったが、このところ仕事が休みになる土日だけ上京してくれる母が「折角だから。」というので、昼食後に外泊の出立をする事にした。
面会時、今まで母に言っていなかった大量服薬の経緯等を詳細に告白した。

昼食、歯磨きを、着替え、と一通りの行事を済ませ、病棟を出た。
タバコが吸いたくなったので、その事を母に告げ、一服した。

母が都会に来たのだから買い物をしたいと言うので、仮住まいのマンションでは無く、最寄りの駅へと歩を進めた。歩く道すがら、ぽつりぽつりと会話をしていると、同居していた彼の話題になった。私の彼への対応を述べると、母が一言、「なめられ過ぎている。」と言い放った。確かに、私は相手の掌で転がされ、弄ばれている様に感じた。母が付け加えた。「相手は何も困っていない。」
その通り。参っているのは私の方。相手が困るまで、私は、私の好きな様に、ただ、前向きに進んで行けば良いと確信した。



4/19(日) 14:00頃

【精神病の境界線とは?】

久々のシャバに出て、人ごみの中、そこらを行きかう面々を見ると、殆んど全てが病人である事に気付いた。

やたら似合わない化粧をしている者。
まったく合っていない服装をしている者。
芸能人気取りなのか、どでかいサングラスでケバイ恰好をしている者。
ひょろひょろで今にも倒れるんじゃないかと顔色の悪い者。
目に覇気が無く、何を求めてうろついているのか分からない者。

彼等は、外見上、病院に出入りしている患者達と大差なかったのである。
彼等がもし精神病院に出入りしていれば、「ああ、患者だな。」と思われるに違いない。

一体、精神病者とそうでない者の境界線は何処にあるのであろう。
ただ単に、通常社会に溶け込めない。
一般的に労働者としての地位をもたない。
それだけで病気と言う代物になるのであろうか?



4/19(日) 14:00頃

【暑いなあ】

鬱病に日光が良いと感じていたが、暑すぎるのは、これ又良くない。
母が求める商品の物色中、私はサンサンと太陽が照りつけるの喫煙所で一服していた。
光で明るいのは心地良いのだが、流石に汗がじんわりと出てきた。



4/19(日) 14:10頃

【怪奇な蓑虫】

一服した後、木陰の椅子に腰掛け、今、面白い物を見ている。
蓑虫が、さなぎの時の殻から頭だけを出して、壁をつたっている。彼からしてみれば、左へ左へと動いている。
ファーブルが子供の頃1日中蟻の観察をしていたという話を耳にした事があるが、今まさしくそんな気分。
私の場合、母が買い物から戻ればそれまでだが。
尤も、飽きやすい自分が、ガヤガヤとする人通りを他所にして、いつまでこれを見逃さずに居られるかも問題だが。

ちょっと風が出てきた。
蓑虫君には、台風並みの脅威だろう。幾度か壁から剥がされそうになったが、張り巡らせている糸を頼りに、何とか踏ん張り、未だ壁に留まっている。
そして、また左へ左へ。
何故、そんなに拘って左に行くのだろう?
もうチョット上に登れば、平坦で植え込みのある花壇にたどり着くのに。

何かに依存して、それに準じて行動する彼に、興味を持つ。

P.S.
 母が買い物から戻ってきた時と同じくして、彼は左に進み続けた後、とあるところで、
 今度は上に移動し、花壇にたどり着いたのであった。



4/19(日) 21:50頃

【始動、流動体の蠢き】

久しぶりに病棟以外の空間で夜を迎えている。時刻は21:00を少し回ったところ。
土日の休みを利用して上京してくれた母も、先程、寝台列車に乗るべく、去っていった。

私は、シャワーを浴びたくなった。病棟とは違い、自分のリズムで動ける生活は、やはり快適だと感じていた。

しかしである。
支度をし、いざシャワーを浴びはじめると、私の中にあるどす黒く汚れた血のような流動体が、再び蠢き始めた。本来の病棟生活であれば、とっくに服薬し眠りに落ちている時間。私は、シャワーを浴びながら「薬が欲しい。」と望んだ。
何とか、心のドロドロを紛らわせながらシャワーを一頻り終え、寝間着に着換えた。
浴室から出てきた私に、父が二言三言声をかける。その内容の下らなさに、私は苛立ちを表さずにはには、いられなかった。
「うるさい。だまって。」強い口調でそう吐き捨てると、ブツブツ独り言を呟きながら、布団を敷き、寝る支度をする。床の状態が満足すると、薬を飲んだ。

明日予定している用事の為、パソコンを立ち上げ調べ物をしていると、薬が効き始めたのだろう。数分もすれば、いつもの私に戻る事が出来た。

父には、「苛立って済まなかった。」と口にした。

調べ物を終え、“薬依存”なんて事を思いながら、タバコを吸って眠る事にした。


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