鬱病生活記

 表紙
 目次
 はじめに
 第一章

 第二章

 第三章

 第四章

 第五章

 第六章

第一章 精神障害発生(鬱病)

4.精神病院の中

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【患者仲間を増やす】

そろそろ、話を本筋に戻そう。

私は、この『ひろさん』との出来事以降、患者である彼女らを見る目が変わり、私自身の行動を180度変えていった。
これまでは、他の患者と一線を引き、私は傍観者としての立ち位置でいたのだが、私も同じ病人として積極的に彼女達とコミュニケーションとはかる事にしたのである。

20:00になると、睡眠薬の入った薬を飲まされる。
この日は、『ひろさん』との会話を楽しんだこともあり、あっという間にこの時間になってしまった。久々の他人とのコミュニケーションに夢中になったせいもあり、少し疲れを感じていた私は、薬を飲むと直ぐに寝付いてしまった。

そして次の日から、私は忙しくなった。
とりあえず、昨日仲良くなった『ひろさん』と挨拶がてら少し話をし、朝食という行事を済ませた後、他の会話相手を探した。

やはり、とっつきやすいのは子供である。
この病棟には、ただ一人、他の適当な施設に入れなかったのか、子供の患者がいる。
子供と言っても13歳なのだが、見た目は小学校5〜6年生、知能や行動に至っては、幼稚園児かせいぜい小学校1〜2年生くらいの感じの子だ。

後で本人から聞いて知ったことだが、父親はいなく、母親は入院中。
昔、頭を10針も縫う怪我をしたそうで、頭を見せてもらった時には、確かにその傷跡が残っていた。
そんな環境や出来事があったからであろう。
この子は『統合失調症』という病名を付けられここに居る。

私がまだ独房生活で、患者達を遠目から観察していた頃、この子が自己紹介だけして去っていった事があるので名前は知っていた。
多少なりとも、私に興味があったのだろう。
私がその子に向かって、「ゆきさん」と優しく声をかけると、「名前なんて言うの?」という返事が来た。「金子っていうの。」と答えると、彼女の警戒心が解けたのか、いろいろな会話をして楽しんだ。

(尤も、彼女は良い相手を見つけると、邪魔になる程しつこくからみだしてしまう質である事を後から体験して知った。だから、この時は単に私がその標的に選ばれていただけなのかもしれない。)


その後、彼女の部屋のベットへ行き、彼女が書いた絵を見せてもらった。
同じ背丈の2人が、笑顔で手をつないで立っている絵だった。
背景には、家と、太陽が描かれていた。
良い天気の時に、仲良く散歩でもしているかのような絵だった。

「お父さんとお母さん?」と聞くと、「違うよ。お母さんと私。」と彼女は答えた。
私は心の中で「しまった!」と思うと同時に、“お父さんはいない”という事を知った。
死別したのか離婚したのかは分からないが、その時、そんな事を詮索する気にはならなかった。
(後で、彼女の記憶が無いくらい小さい時に、両親は離婚してしまったのだという事を本人から聞いた。)
それ以上、その絵の内容については聞かずに、「絵、上手だね。」と、子供をあしらう手段としてよく大人が良く使うやり方で、絵についての会話は切り上げた。

『ゆきさん』との会話も一通り終えると、『ひろさん』の人脈もあったり、なんやかんやで、午前中の間に知り合いがかなり増えた。


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