鬱病生活記

 表紙
 目次
 はじめに
 第一章

 第二章

 第三章

 第四章

 第五章

 第六章

第二章 精神病院での入院暮らし

2.現実への対峙

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【約束守られず怒り、そして腹立つ女】

更に翌日、また昼休みの時間帯に、私は彼へ電話をかけた。
「昨日は、マンションに戻ってくれましたか?」と訊ねると、「戻らなかった。」との返答。
私は、約束を破られ、蔑まされた気持ちになった。
その後彼は話を続ける。
「もう30分後ぐらいに、電話を掛け直してください。」

まあ、昼休みが始まった直後だから、ゆっくり話せる状態でもないのだろうと思い、また、マンションに戻り水やりに行く支度を整えた後、予定の時間になったので、再度彼の携帯に電話をかけた。

するとどうだろう。
その電話に出たのは、彼では無く、彼の相手の女だった。
流石に私は憤慨した。
そうやって都合が悪い事から逃げ出す彼に対して、また、何の正義感なのかは計りかねるが、彼を助けるつもりでその女は電話に出たのであろう。
彼女は言う。
「あなたからの電話に彼は怯えています。彼は大分神経が参っているので、こんな事は辞めてもらいたい。彼が私の所に居ても落ち込む一方なのですよ。」

そりゃ、落ち込んで弱っていくのは当然だろう。彼は自分で悪い事をしたと心の中で自覚していて、その元凶となる人物が傍に居るのだから。

私はその女に返した。
「彼がそんなに弱っているなら、他の場所に行かせれば良いじゃないですか。例えば、ホテルに泊まるでも、実家に帰らせるでも。」

すると彼女は、極々世間的にまともな事を言う。
「ホテルに泊まリ続けるような事をしたら、いくらお金がかかると思っているのですか。また、実家に帰ったら、仕事はどうなるのですか。」

私は、今回の出来事のダメージで、仕事を辞め、入院生活を強いられている。
そんな私にとって、例え世の中で合理的な判断だとしても、そんなちっぽけな常識は通用しなかった。(確かに私は常識外れな事なのかもしれない。所詮、精神病院に入れられている患者なのだから。)

私は質問を続けた、かなり感情的になりながらも、それなりに丁寧な言葉遣いで。
「あなたは内縁関係の男性を囲っているのですよ。その事について、あなた自身はどう思っているのですか。悪い事だと思っていないのですか。」
そう訊ねると、彼女はこう答えた。
「先日、貴方は法廷で争うと言ってましたので、内縁関係であるか否かも含めて、私も裁判で争うつもりでしたが。」

私は、続ける。
「確かに、この前、私はあなたにそんな事を言ってしまいましたが、あの時は薬を飲み意識が朦朧とした状態だったのです。今冷静に考えると、その様な事をする前にちゃんと話し合いがしたいのです。」
そして、付け加えた。
「彼があなたの所に居ると落ち込むというのであれば、他の所に行くように彼に言って下さい。それに、最初の2〜3日はホテルとか友人宅とかに彼は居たのでしょ。だったら、また、友人宅にでも行かせればよいじゃないですか。」

すると彼女の答えはこうだった。
「彼は最初から私の所に居ました。私も『他の所に行った方が良いのでは。』と言いましたが、彼は『友人宅に行こうともしたが、今は宛が無い。』と言って、結局、私のところに居る事になったのです。それから、あなたが会社に押し掛けてきた時、私は彼に『ホテルに泊まっていると言いなさい。』と助言しました。」
そして、少し黙った後、彼女は付け加えた。
「まあ、あなたの言葉は、そのまま彼に伝えておきます。」

「あの時の彼の話も嘘だったのか…。」
更に怒りを覚えた私は、続ける。
「ところで、彼があなたの所に居たいと言ったら、あなたは受け入れるのですか。」
この問いに対して彼女は、「彼が希望するならそうします。」と答えた。

私は、彼女の何処か客観的すぎる態度に怒りと疑問を覚え、更に問いただした。
「あなたは、さっきから自分の気持ちを全く言ってませんね。あなたは、彼を囲っている事を悪い事だとは思っていないのですか。」
暫らくの沈黙の後、彼女は答える。
「あなたに対しては、結果的に済まない事をしたと思っている。」

しかし、これは私の問いの答えになっていない。
これもまた客観的っぽく、自分の気持ちを表に出して話していない。
要するに私は、あなたと彼にこれから起きるであろう色々な苦難に対して、真剣に彼と共に対峙する覚悟があるのかを聞きたかったのだ。そこまで本気になっているかを聞きたかったのだ。
だが、彼女は「もう時間ですから。」と言い、感情的になってしつこく問いかける私に対し、「もう裁判して下さい。」と言い放って電話を切った。


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