鬱病生活記

 表紙
 目次
 はじめに
 第一章

 第二章

 第三章

 第四章

 第五章

 第六章

第二章 精神病院での入院暮らし

2.現実への対峙

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【分かっていても止められない、未練】

流石に私はこの電話のやり取りに疲弊した。
喫煙所でタバコを吸った後、タクシーに乗りいつものマンションへと向かった。

やはり、彼が足を踏み入れた様子は全く無い。
そんな現実を目の当たりにしつつも、乾いた植木鉢に水をやると、帰る時間になるまで、私は横になった。

彼は本当に「ああ言えば、こう言う。」と言った感じで、嘘ばかり付く。
そう言えば、入院前に彼の仕事場に押し掛けた時、彼が「今はホテル住まい。」と言ったことがあった。先程の彼の相手の女の話では、「あれは私がそう言わせたのです。」との旨の事を言っていた。女の方が彼を庇って言っているのか、本当に女の方が言わせた事なのかは想像しかねる。
万一、彼が女に操られているとなれば、ちょっと可哀想な気もするが、所詮、自業自得。私が、どうこうする事では無いのだろう。

しかし、疑問が残る。
先程の女の電話では、私の大量服薬直後、彼が女の家に泊まろうとした時、その女は「他の所に行った方が良いのでは。」と忠告したと言っていた。(嘘である事も十分考えられるが。)
それに対し彼は「友人宅に行こうともしたが、今は宛が無い。」と答えたそうだ。
はて、彼には、彼の会社に十分通勤できるくらいの所に、彼の妹の住まいがある。
彼の妹と私は面識もあり、私の大量服薬直後、電話で話をした事もあった。
しかし、彼が妹の所に泊めて欲しいと願い出たような話は聞いていない。
また、彼の妹は、私が大量服薬をした事は知っていたのに、その理由については私が話すまで知らなかったのだ。
そして、その妹は「兄がそう言っているのならば、本当だと思う。彼は、そんな嘘をつくような人では無い。」と付け加え、私も「そうだよね。」と良い方に解釈しようと努め、そう答えていた。(結局、私も彼の妹も、まんまと騙されてしまったみたいだが。)

まあ、彼とその相手の女は、お互い傷を舐め合っている状況なのだろう。
私の友人や、病棟で知り合った仲間達、そして、私の両親の意見でも、「どうせ長続きしないだろう。」との事。私もそう思う。
相手女性の事は良く知らないが、あのような彼なのだから。

私の親友は、こうも言う。
「ほっといても、そのうち彼は破綻するよ。何か自分で悲惨な状況に追い込んで『私は誰かの為に何かしてあげているんだ。』と言うような行動をしたいと、心の奥底に願望として持っているような性格だから、関わらないのが一番。」

そうなのだ。とても納得する。
しかし、頭で割り切っていても、未練と言うのであろうか、今までの自分の行為が間違っていた事を認めたくない為であろうか、私の心は、まだ彼に囚われている。

そんな事を考えていると時間になり、私はタクシーで病院へと戻った。


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