鬱病生活記

 表紙
 目次
 はじめに
 第一章

 第二章

 第三章

 第四章

 第五章

 第六章

第三章 鬱病者としての日々

1.閉じこもり生活

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【IQテストの実施】

とりあえず、兄の事は放っておいて、話を元に戻そう。

私は、病院の受付に行き、「1時から心理検査を予定している金子ですけれど。」と言うと、間もなく担当の女性の医師(正確に言うと、臨床心理士で医師では無いのか?)が来て、私を検査室へと案内してくれた。先日の診察の後に検査日時について話した人とは別の人で、年の頃は40代前半くらいだろうか。
案内された所は、検査室と言っても、机と椅子があるだけの普通の部屋。そこに入ると、一通りの挨拶を経て、軽い会話になった。
私が、「なんかここ(病院)に来ると、入院中に仲の良くなった仲間がいるせいか、安心するんですよね。」と何の気なしに言うと、担当医は「珍しいですね。入院中に周りの患者と仲良くなるなんて。あんまり聞いた事が無いわ。」と答えた。尤も、彼女はそれ程この病院に訪れる立場では無いのだろう。また、こういう検査をする相手も、そんなにまともな人ばかりではないだろうから、私のように普通に世間話をするような者は珍しい部類だと思われる。入院中に患者達は結構仲良くなっていると、私の経験上、感じられるのだが。
そんな会話の中、机の上にある私の手を見て、「手が震えていますね。緊張しているんですか?」と彼女が訊ねた。私は、「いいえ、全然緊張はしていないんですけれど。薬の副作用とかなんですかね。」と笑いながら答え、確かに震えている自分の手を見つめた。別に緊張している自覚は無い。寧ろ、リラックスしているように感じていた。そう言えば、先日、診察で主治医と話していた時も、手の震えを指摘されたような気がする。私は、無意識に緊張しているのだろうか。本当に、そんな自覚は全く無いのだが。

そんな会話で少し和んだ後、いよいよテストが始まった。
『IQテスト』と言うだけあって、かなり頭を使わされた。パズルを組んだり、数字や言葉を暗記させられたり、計算したり、一般常識問題みたいなものまであった。
テストを終えた際に、担当医から「結果が出るのに2週間程かかります。」と言われた。「次の診察が、来週の金曜日、6月5日なんですが、その時まで結果が出るんでしょうかね。微妙なとっころですね。」と私は答え、検査室を出た。
途中、一服の休憩時間を入れて貰いつつ、最後まで終えるには3時間くらいはかかったのだろう。病院の受付に戻ると、既に午後4時を回っていた。
受付で一通りの手続きを終えると、病院を出て、私は父に電話をした。父は、丁度、こちらに向かっているところだった。
車で到着した父と、また喫煙所に行き一服した。私は、「とにかく疲れた。頭を使ったから。」と感想を漏らすと、父は「IQテストか。自分もやってみたいものだな。」なんて言った。
ちなみにIQテスト(知能指数検査)とは、同じ世代の人たちと比べて、どの程度頭の周りが早いかを計る物らしい。昔良く、「小学生でIQが180ある。天才だ。」なんて話を耳にしたが、その子が単に早熟なだけであれば、年齢とともにIQは下がり、「昔神童、今は普通の人。」になってしまう訳である。また、同世代の人達と比べる訳だから、偏差値と同じように、同じ世代がバカばっかりだったら、自ずと自身のIQは高くなる。だから同じIQ値だったとしても、世代が違えば、どちらの頭が良いかなど比べられない代物なのだそうだ。同じ『東大の入る。』のでも、少子化時代の今の世代の人と、ベビーブームでライバルが沢山いた受験戦争世代の人では、レベルが格段に違うのと一緒だ。なお、「戦後一貫して、日本の学力レベルは落ち続けているのだ。」と私が大学時代に、とある教授から聞いた事がる。

喫煙所での一服を終えると、父に車でマンションまで送ってもらう途中、スーパーに立ち寄り、いつのもメニューの買い物をして帰った。

父は、暫らくマンションで寛いだ後、「それじゃあ、帰るか。」と言って、立ちあがった。
私は、「本当に色々と世話をかけてすまない。」と言って、父を玄関先で見送った。

そうして、私はまた一人になり、いつもの、何とも堕落した生活を続けることになった。


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