鬱病生活記

 表紙
 目次
 はじめに
 第一章

 第二章

 第三章

 第四章

 第五章

 第六章

第三章 鬱病者としての日々

1.閉じこもり生活

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【『生き物の記録』の薦め】

翌日、7月11日(土)、暑さのせいか寝苦しく、非常に目覚めが悪く、午後1時頃まで、布団の上でごろごろしていた。いつもなら、競馬中継を見る為に活動的になるところなのだが、今日は何故か駄目だ。昨日の疲労が残っているのだろうか。
そんな時、携帯が鳴り出てみると、私の両親から「あなたの状態を見に、車で近くまで来ているんだけれど。」と言う内容だった。久しぶりに私の生活状況を見たかったのだろう。
私は、寝ぼけ眼を擦りながら、「合鍵持っているんでしょ。玄関は開けておくから、勝手に入って来て良いよ。」と伝えた。
それから、ようやく体を動かし、玄関の鍵を開け、『デパス』を飲み、一服しながら、目を覚ましていた。
暫くすると、両親が部屋に入って来て、余計な物が無く、それなりに綺麗にしている部屋の状態を見て安心したのか、父は「ちゃんと掃除も洗濯も出来ているようだな。」と漏らした。母は、自ら喋ろうとしないが、何か気を使っている雰囲気だったので、「誰かが気を使っている事を感じ取ると、余計に、こちちらの気が重くなるんだよね。何か用事があるなら、とっとと済ませてよ。」と私は両親に向かって言った。母は、とりあえず持ってきたお菓子や食べ物などを見せて、「必要な物があったら、持って行って。」と言った。私は、適当なお菓子を冷凍庫に入れ、手間がかからずに食べられるトマトやアスパラ、なすの漬物を貰った。
私の何だかさえない様子を気にしてか、「私たち居ると邪魔でしょ。」と母が言う。特に邪魔と言う事も無かったのだが、まあ、居ない方が楽だったのは確かだ。私は「別に邪魔と言うほどでも無いけど、居ない方が楽だね。今日は、兄の所に泊まるんでしょ。」と言うと、やはり「多分そうなると思って、あなたのところにはちょっと寄ってみただけ。とりあえず、また今日来るから。」と言って、昼御飯でも食べに行ったのだろうか、両親は出て行った。

私はようやく覚醒してきて何時もなら競馬でも見るのだが、最近買ってハマっていたゲームをやって時間を潰す事にした。そうしていると夕方頃、また、両親がやってきた。
昼間よりもはっきりした状態の私を見て、少しは安心したのだろう。色々と会話をする。
特に母親は、「彼から『調停をする。』と連絡来たみたいだけど、その後どうなの。」と一番聞きたかったであろう質問を投げかけて来た。私は、先日法律相談に行って、特にこちらからアクションする必要ない事、彼が『調停』の手続きをすれば、それなりの所から連絡が来るので、今はそれを待っている状態である事を一通り説明した。母も、聞きたかった事を聞け、一安心したようなであった。
それから、以前母には「黒澤明の映画でも見たら。」と薦めていたものがあったが、どうもタイトルが分からないのままだったので、インターネットで検索し、黒澤明の作品一覧を印刷したものを、母に手渡した。その中で私が以前見て欲しかったのは、どうやら『生き物の記録』という映画だった事が分かった。「どっちが“気違い”で、どっちが“まとも”なのか。」そんな事を考えるには良いテーマと思い、精神病院入院中に母に薦めていた作品だ。
そんな事を話しながら、私は次々とタバコに火をつけ吸い続けている。それが気になったのか「あなた、タバコ吸い過ぎだ。」と母に言われた。私一人で居る時は、せいぜい多くても1日に1箱程度なのだが、人会話している間はばかばかとタバコを吸うようだ。人と接する緊張感を紛らわすための薬のような感覚で、そんな事をしているのかもしれない。昨日、『ひろさん』の家で寛いでいた時も、同じように立て続けにタバコを吸う状況だった。私は母に「人としゃべっていると、どうやらタバコを吸うらしい。」と言うと、母は、「じゃあ、ゲームでもやってなさい。」とやりかけのゲーム画面を指して促した。
そして、その日は、両親とも兄の家へと戻った。出がけに、母が「また明日くるかも。」と付け加えたので、私は「来てもいいし、来なくてもいいし。来るとしても遅い時間の方が良いと思う。昼ごろでは寝ぼけ気味だから。」と言って、両親を玄関まで見送った。

やっぱり久々に人と会話する事で、それなりに得る事はある。しかし、それとは裏腹に「早く社会復帰をしなければ。」との焦りが、背中を押す。何の行動も出来ないのだが・・・。


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